リモートワーク時代の労務管理と法的課題:見えない部下をどう守る?
リモートワーク(テレワーク)は、もはや一時の避難措置ではなく、恒常的な働き方の一つとして定着しました。 しかし、人事・労務担当者からは悲鳴も聞こえてきます。 「部下がいつ働いているかわからない」 「残業代はどう計算すればいい?」 「自宅での事故は労災になるの?」
オフィスという物理的な管理下から離れることで、従来の就業規則では対応しきれない法的課題が浮き彫りになっています。今回は、リモートワーク時代に必須の労務管理ポイントを解説します。
1. 労働時間の管理:隠れ残業を防ぐ
最も大きな課題は「労働時間の把握」です。 使用者は労働者の労働時間を適正に把握する義務(安衛法)がありますが、自己申告だけに頼ると、評価を気にして残業を申告しない「隠れ残業(サービス残業)」が発生しやすくなります。
法的リスク
把握していない残業であっても、客観的な証拠(PCログやメール送信履歴)があれば、後から未払い残業代を請求されるリスクがあります。
対策
- 客観的記録の活用: 勤怠管理システムとPCログオン/ログオフ時刻の乖離をチェックするツールを導入する。
- メール・チャットの制限: 深夜や休日の業務連絡を原則禁止するルールを作る(つながらない権利)。
- みなし労働時間制の検討: 「事業場外みなし労働時間制」の導入も選択肢ですが、要件(使用者の指揮監督が及ばないこと)が厳格なため、常時チャットで指示ができる環境では適用が難しい場合が多いです。
2. 「中抜け」の取り扱い
在宅勤務中、宅配便の受け取りや子供の送迎などで業務を一時中断する「中抜け」。 これをどう扱うかは、事前にルール化しておく必要があります。
- 休憩時間とする: 中抜けした時間を休憩として扱い、終業時刻を後ろ倒しにする。
- 時間単位年休: 有給休暇を1時間単位で取得したものとして処理する。
- 労働時間とみなす: 短時間であればトイレ休憩と同様に労働時間として扱う(寛容な運用)。
トラブルを防ぐため、就業規則に明確な規定を設けましょう。
3. 通信費・光熱費・機器の費用負担
自宅で仕事をするためのWi-Fi代や電気代、モニター購入費などは誰が負担すべきでしょうか? 法律上は明確な規定はありませんが、労働基準法では「労働者に負担させるべきもの」については就業規則に記載しなければならないとされています。
実務上の対応
いちいち「電気代の何割が業務分か」を計算するのは非現実的です。 多くの企業では、「在宅勤務手当(月額3,000円〜5,000円程度)」を一律支給することで、これらの実費をカバーする運用を行っています。これは課税対象となる点に注意が必要です。
4. リモートハラスメント(リモハラ)
オンライン会議やチャットならではのハラスメントも問題になっています。
- Web会議で部屋の様子をじろじろ見る、背景について過度に言及する(セクハラ・個の侵害)。
- チャットで常に監視し、返信が遅れると執拗に責める(パワハラ)。
- Web飲み会への参加を強要する。
対策: ハラスメント防止規定にリモートワーク特有の事例を追加し、管理職向けの研修を行うことが重要です。
5. 労災の適用
自宅での作業中に怪我をした場合、労災は降りるのでしょうか? 原則として、「業務遂行性」と「業務起因性」が認められれば労災認定されます。
- ○ パソコン作業中にトイレに行こうとして転倒した。
- × 業務中に私用で料理をしていて火傷した。
プライベートな行為との境界線が曖昧になりがちですが、業務時間内であれば労災と認められる可能性は十分にあります。
まとめ
リモートワークは「性善説」だけでは運用できません。かといって「監視」を強めすぎれば社員のエンゲージメントは下がります。 重要要なのは、「ルールの明確化」と「ツールの活用」です。就業規則をリモートワークの実態に合わせてアップデートし、お互いが納得して働ける環境を整備しましょう。
