インボイス制度導入後の実務トラブルと対応策
2023年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)。2025年現在、実務運用は定着しつつありますが、依然としてトラブルは絶えません。 特に、免税事業者(インボイス発行事業者ではない事業者)との取引や、経費精算時の細かなミスが、税務調査での指摘事項となるリスクが高まっています。
本記事では、導入後に頻発しているトラブル事例と、法務・経理担当者が取るべき対応策について解説します。
1. 免税事業者との価格交渉トラブル
最も多いのが、インボイス登録をしていないフリーランスや小規模事業者との取引条件に関するトラブルです。
独占禁止法・下請法のリスク
「インボイス登録しないなら、消費税分(10%)を値下げする」と一方的に通告することは、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請法(買いたたき)に抵触する恐れがあります。
- NG例: 「来月から一律10%カットします。嫌なら契約解除です。」
- OK例: 「仕入税額控除ができなくなるため、価格について協議させてください。経過措置(8割控除など)も考慮し、○%の調整をお願いできませんか?」
ポイント: あくまで「協議」の上で、双方が納得して合意する必要があります。交渉の記録は必ずメールや書面で残しておきましょう。
2. 登録番号の確認ミスと修正義務
受け取った請求書に登録番号(T + 13桁の数字)が記載されていても、それが有効なものか確認していますか?
よくあるミス
- 番号の記載ミス(数字の間違い)。
- 取引時点で登録が取り消されている、または失効している。
国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で番号を検索すれば確認できますが、全件手作業で行うのは困難です。多くの企業では、会計システムや請求書受領サービスの自動照合機能を導入して効率化しています。
修正インボイスの発行
記載事項に誤りがあった場合、受領側(買い手)が勝手に追記・修正することは認められていません。必ず発行側(売り手)に連絡し、正しい「修正インボイス」を再発行してもらう必要があります。
3. 3万円未満の領収書と公共交通機関
旧制度では「3万円未満の取引は請求書保存不要(帳簿のみでOK)」という特例がありましたが、インボイス制度では原則として廃止されました。 しかし、すべての少額取引でインボイスが必要なわけではありません。
保存不要なケース(特例)
- 公共交通機関特例: 3万円未満の鉄道、バス、船舶の運賃(タクシー、航空機は対象外)。
- 自動販売機特例: 3万円未満の自販機での購入(飲料、コインロッカーなど)。
- 出張旅費特例: 従業員に支給する出張日当や宿泊費(通常必要と認められる範囲)。
これらの特例を社内の経費精算規定に明記し、従業員に周知徹底することが重要です。「領収書がないと経費に落ちない」と誤解して、不要な業務負荷をかけているケースが散見されます。
4. デジタルインボイス(電帳法対応)
インボイス制度は、電子帳簿保存法(電帳法)とも密接に関わっています。 PDFやメールで受け取ったインボイス(電子取引データ)は、紙に出力して保存するのではなく、データのまま保存することが義務付けられています(宥恕措置終了後)。
- 検索要件: 「日付」「金額」「取引先」で検索できるようにする。
- 真実性の確保: タイムスタンプの付与や、訂正削除不可のシステムを利用する。
まとめ
インボイス制度は単なる「経理処理の変更」ではなく、取引先との契約関係や、社内のITシステム全体に関わる経営課題です。 特に免税事業者との取引については、法的リスク(下請法など)を十分に理解した上で、慎重なコミュニケーションを心がけましょう。
