フリーランス新法(フリーランス保護新法)の完全解説
働き方の多様化に伴い、フリーランス(特定受託事業者)として働く人が急増しています。一方で、立場の弱いフリーランスが不当な扱いを受けるケースも後を絶ちません。 こうした状況を改善するために施行されたのが「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス新法」です。
下請法と似ていますが、下請法が「資本金1000万円超の企業」を対象としていたのに対し、フリーランス新法は「業務委託をする全ての事業者(フリーランスに発注するフリーランスも含む)」が対象となる点が大きな特徴です。
発注事業者に課される7つの義務
この法律では、発注事業者を「特定業務委託事業者」と呼び、以下の義務を課しています。
1. 書面等による取引条件の明示(全事業者対象)
業務委託をする際は、直ちに以下の項目を明示した書面(またはメール、電子契約)を交付しなければなりません。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注日、給付受領日
「口約束」は法律違反となります。LINEやSlackでの発注も可能ですが、後で消えないように保存可能な形式であることや、記載事項が網羅されていることが必要です。
2. 報酬支払期日の設定・支払(全事業者対象)
報酬は、「給付を受領した日(納品日)から60日以内」かつ「できる限り短い期間内」に支払わなければなりません。 「検収完了から60日」ではありません。「納品日」が基準である点に注意が必要です。
3. 募集情報の的確表示(全事業者対象)
求人広告やSNSでフリーランスを募集する際、虚偽の表示や誤解を招く表示をしてはいけません。また、条件を変更する場合(例:面談後に当初より低い報酬を提示する)は、その旨を明示する必要があります。
4. ハラスメント対策体制の整備(全事業者対象)
セクハラ、パワハラ、マタハラなどが起きないよう、相談体制の整備(窓口の設置など)や事後の迅速な対応が義務付けられます。 「社員じゃないから関係ない」は通用しません。
5. 育児介護等との両立配慮(継続的業務委託の場合)
6ヶ月以上の継続契約の場合、フリーランスから「育児・介護・病気療養」などの申し出があった際は、業務時間や納期の変更など、必要な配慮をしなければなりません。 (※6ヶ月未満の場合は「努力義務」)
6. 中途解除等の事前予告(継続的業務委託の場合)
6ヶ月以上の継続契約を解除(または更新拒絶)する場合、少なくとも30日前までに予告しなければなりません。また、フリーランスから理由の開示を求められた場合は、これに応じる義務があります。
7. 不当行為の禁止(継続的業務委託の場合)
1ヶ月以上の継続契約の場合、以下の行為が禁止されます(下請法と同様)。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更・やり直し
違反した場合のペナルティ
公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省が指導・助言・勧告・命令を行います。 命令違反には「50万円以下の罰金」が科されるほか、社名が公表されるリスクがあります(レピュテーションリスク)。
企業が準備すべきこと
- 発注フローの見直し: 必ず発注書(または契約書)を発行するワークフローを確立する。
- 契約書のひな形改定: 支払サイトが「60日以内」になっているか確認する。
- ハラスメント研修: 管理職だけでなく、発注担当者全員に研修を実施する。
フリーランス新法は、フリーランスを守る法律であると同時に、企業にとっては「優秀なフリーランスと長く良好な関係を築くためのガイドライン」でもあります。法令遵守を徹底し、選ばれる発注主になりましょう。
