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取締役の善管注意義務違反とは?判例から学ぶリスク管理

企業の役員(取締役、監査役など)に就任することは名誉なことですが、同時に重い法的責任を負うことでもあります。 その中心にあるのが「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」です。 近年、株主代表訴訟により、役員個人に対して億単位の損害賠償が命じられるケースも珍しくありません。

本記事では、取締役が負う善管注意義務の基本と、リスクヘッジのための「経営判断の原則」について解説します。

善管注意義務とは

民法第644条および会社法第330条に基づき、会社と取締役は「委任関係」にあります。 受任者(取締役)は、その地位や能力、状況に応じて、「通常期待される程度の注意」を払って職務を行う義務があります。これを怠って会社に損害を与えた場合、任務懈怠(にんむけたい)として損害賠償責任を負います。

具体的には以下のような義務が含まれます。

  • 監視義務: 他の取締役や従業員の不正を見逃さないよう監視・監督する義務。
  • 内部統制システム構築義務: コンプライアンス体制やリスク管理体制を整備する義務。

経営判断の原則(Business Judgment Rule)

しかし、ビジネスにはリスクがつきものです。「結果的に失敗して赤字になった」というだけで責任を問われては、誰も大胆な経営判断ができなくなってしまいます。 そこで、裁判所が採用しているのが「経営判断の原則」です。

以下の要件を満たしていれば、たとえ結果として会社に損害を与えたとしても、善管注意義務違反には問われないという法理です。

  1. 事実認識の過程に不注意がないこと: 十分な情報収集と調査・分析を行ったか?
  2. 判断の過程・内容が著しく不合理でないこと: 収集した情報に基づき、通常の経営者として合理的な判断プロセスを経たか?

つまり、「結果」ではなく「プロセス」が問われます。

代表的な判例:アパマンショップ事件(東京地裁 平成20年)

フランチャイズ加盟店から預かったシステム開発協力金などの使途が不明朗だとして、株主が取締役らを訴えた事件です。 裁判所は、取締役らが十分な情報収集を行わず、漫然と支出を承認したとして、善管注意義務違反を認定しました。 「社長が言ったから」「慣例だから」という言い訳は通用せず、取締役個々人が自ら調査・確認すべきだったと判断されました。

役員個人が取るべき対策

1. 議事録への異議の記録

取締役会で「これはリスクが高い」「調査不足だ」と感じた場合は、反対意見や質問を述べ、それを議事録に残してもらうことが極めて重要です。 会社法上、議事録に異議をとどめなかった取締役は、その決議に賛成したものと推定されます(会社法369条5項)。

2. 専門家の活用

重要な判断をする際は、弁護士、会計士、コンサルタントなどの外部専門家の意見書(オピニオン)を取得し、それに基づいて判断したという記録を残すことで、「十分な調査を行った」という証拠になります。

3. 役員賠償責任保険(D&O保険)への加入

万が一訴訟になった場合の弁護費用や賠償金(故意・重過失を除く)をカバーする保険です。優秀な社外取締役を招聘するためにも、D&O保険の整備は必須となっています。

まとめ

取締役の責任は年々厳格化しています。「名義貸し」や「お飾り役員」であっても、法的責任からは逃れられません。 常に「株主に対して説明できる合理的なプロセスを踏んでいるか」を自問自答しながら経営に当たることが、最大のリスク管理となります。

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